2011年05月08日

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「スーちゃんの死」後も乳がんと生きる

がんと向き合う[1]再発


編集部 大重史朗 医療ジャーナリスト 福原麻希


 付き合っていた年上の彼の手が止まった。彼は、右乳房にもう一度触れながら言った。

「なんか、ここ、硬いよ」

 小椋すみれさん(53)は一瞬、何だろうと思いながら、大好きだった彼の顔をのぞき込んで、いたずらっぽく言った。

「もし乳がんで、命があと2年って言われたら、どうする?」

 35歳の時だった。

 その後、自分でも何かにつけて乳房に手で触れるようになった。確かに、小さなしこりがある。左乳房にはない。ただ痛みや疲れ、体調の変化は感じなかった。親族に、がん患者はいない。病院に行くのも怖かった。

 4年後、市民検診でしこりが良性と診断されたときは、胸をなでおろした。が、誤診だった。やがて、右乳房にえくぼのような陥没が見られるようになった。乳房の表面が赤くなり、ぼつぼつが浮かび上がったり、乳頭から分泌物が出てきたりした。

 9カ月後、覚悟を決めて乳腺の専門医に診てもらった。6.6センチのがんが見つかった。「進行乳がん」と診断された。

  帰り道、5年前の彼との会話をぼんやり思い出した。彼とは別れたばかりだった。

 医師は右乳房を全摘すると言った。だが小椋さんの自慢は、つぶらな瞳と90センチのバスト。乳房を残してほしいと訴えた。医師は首を横に振った。

「とんでもない。今すぐ手術日を決めます。手術をしなかったら、がんがもっと大きくなり、皮膚を突き破って醜く汚くなります。それを選択するのですか」

 すぐに、首のリンパ節転移が見つかった。1年後には乳腺に再発し、肺にも転移していたーー。

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