国家の資産とは？／政府は平素から領土本能の抑制を

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特ダネ記者魂
国家の資産とは？／政府は平素から領土本能の抑制を

2010年10月12日

国家の資産とは？／政府は平素から領土本能の抑制を

［田岡俊次の特ダネ記者魂］

　中国の温家宝首相は９月21日、ニューヨークで、日本に漁船船長の即時釈放を求め「釣魚島（尖閣諸島）は中国の神聖な領土」と述べた。日本でも領土を神聖視する論は少なくない。古来「領土、人民、主権」が国家の３要素とされてきたためでもある。だが、テリトリーがほぼ唯一の資産だった狩猟、農業経済の時代と異なり、商、工、サービス業が主体の今日では国の消長を決めるのは「資本、技術、情報」であり、領土面積は決定的要素ではなく、「ボーダーレス化」も急速に進んでいる。

　１人当たりの所得が2008年で４万ドル以上の20カ国中、14カ国はルクセンブルク、スイス、デンマーク、ノルウェーなど欧州の中、小国で、３カ国は中東のカタールなど小ぶりの産油国。面積が大きいのは米、加、豪の３カ国だ。同じ中国系が主体の四つの国・地域でも、最も豊かなのはシンガポール（700平方キロ、１人3.8万ドル）、次いで香港（1100平方キロ、3.3万ドル）、台湾（3.6万平方キロ、1.5万ドル）、中国本土（960万平方キロ、3260ドル）と、面積が大きいほど貧しい。

　日本も戦前は台湾、朝鮮、満州、樺太（すべて当時の呼称）を支配したが、何とか採算が合ったのは台湾だけで、敗戦でそれらを失った後、日本経済は急浮上した。大英帝国でも儲かった植民地はカナダ、オーストラリアなどごく一部で、インドなどは大赤字、植民地経営は全体としても赤字だ、と19世紀の「小英国主義者」は植民地放棄を提唱した。

　1982年、フォークランド諸島をアルゼンチン軍に占領され、奪還に成功した英国は、面目は保ったものの、その後兵員1200人、戦闘機、軍艦を人口1800人で牧羊しか産業のない島に駐留させざるをえず、財政負担に苦しんだ。これに懲りた英国は昔七つの海で領土とした無用の島々を自ら他国に進呈する政策を取っている。

　テリトリー争いはアリでも必死になる動物の本能だから、領土問題ではどの国民も非常に興奮し、政府も世論を恐れて強硬姿勢を示し、対立を激化しがちだ。どの国も平素から貿易や金融など、対外協調の利を国民に説いて領土本能を少しでも抑制するのが得策だろう。

ボーダーレス化 , 温家宝首相 , 釣魚島（尖閣諸島） , 領土問題 , 領土面積