2011年07月15日

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おにぎり、の巻。

 スウェーデンで、おにぎりを作りました。
 スウェーデンに行くのは初めてです。
 テレビの仕事で五月の末に行ったのですが、ストックホルム郊外にあるご家庭に三日間お邪魔して、取材をさせてもらいました。
 そのモランダーさんご一家は、中学二年生と小学一年生の娘さんがいる四人家族。家の中はもちろん、学校の授業を見学させてもらったり、おじいちゃんおばあちゃんのお宅に連れて行ってもらったり、お祭りみたいなマーケットへ行ったり、近くの浜辺でバーベキューしたり、夕食を一緒に作ったりと、朝から晩まで盛りだくさんな取材内容。かの地はちょうど白夜の季節に入ったところで、夜中にならないと暗くならず、よって撮影時間は延びる一方でした。楽しいなあとうっかりしていると、あれ大変! もう夜の九時! という感じなのです。
 仕事とはいえ、ご家族のご好意に甘え、本当にお世話になってしまいました。
 それで、お別れの日に、感謝の気持ちをこめておにぎりを作ることになったわけです。
 おにぎりって、シンプルですが日本ではなじみの深い食べ物。
 本来は旅立つ人へ渡すものという印象が強いので、去って行く私が作るのはちょっと変ですが、まあそこはちゃんと説明をすればいいよね。
 買い出しは近所のスーパーへ。スウェーデンやノルウェーといった北欧は、鮭がたくさん獲れる土地、ということで具はもちろんこれで決まりですよね。鱒と鮭を取り違えないように、慎重にフダをチェックして買う。
 お米も普通に売っていました。というか棚にずらりと並んでいてびっくり。タイ米、ジャスミン米、黄色いのや赤っぽいの、大きい粒小さい粒長い粒と、まるでお米フェア開催中といった感じです。移民が多いというお国柄なのでしょうが、それにしてもすごい種類があるんですねえ。日本はお米の国と思っていましたが、そこにあったのは普段見かけないものばっかり。お米の国は、世界中たくさんあることに気づかされます。
 ここでは迷わず「SUSHI」の文字と絵がかいてあるものをカゴに入れました。私たちがいつも食べているようなお米でないと、ぽろぽろしておにぎりが作れないからね。
 そのすぐ横には海苔も売っていた。さらにその隣には「巻きす」まで! いったい、どれだけのスウェーデン人が巻きすを買うのでしょうか。家で巻き寿司作るのかなあ。まさか卵焼きを形作ったりとかもしないだろうしなあ。そもそも卵焼きなんて作らないよね。私が思うに、おそらく日本でも、これを持っている家ってそんなにないような......。遠く離れた土地で、まさかの巻きすに出会って、不思議な気分でした。
 おにぎり食材の買い物をしている間、私のマネージャーNさんもなぜかカゴを持ち、お菓子のコーナーへさささと移動していくのが見えた。棚ごしにのぞくと「ムーミン」の棒つきキャンデーを二、三袋つかんでいるのです。私が「あ!」と言うと「こ、これは他の現場へのお土産です!」と、自分用ではないことをアピールしていました。キャンデー、たしかにかわいかったのですがムーミンはスウェーデンじゃなく、フィンランド生まれのキャラクターですよね。いいのかしら。
 そういう私も、果物コーナーで巨大なオレンジジュース絞りマシンを発見。フレッシュジュース! おいしそう、欲しいなあとついつい寄り道です。この機械、脇に空容器と、オレンジの箱がででんと置いてあるだけのセルフサービス。豪快だなあ。
 スーパーとか市場とか、食料品店って、本当に楽しい。外国へ行くと必ずと言っていいほど、一度は探検しに行きます。Nさんではありませんが、お土産も、いいものが見つかったりするんですよね。

 さて話はおにぎりに戻ります。お鍋でご飯を炊き、塩をふった鮭はオーブンで焼いて、三角おにぎりを八つ作ることにしました。おにぎりを握るときってつい熱中してしまう。食べる相手を思いながらもくもくと作業をします。
 たったの三日間でしたが、ホームステイをしているような錯覚をするほど、濃いひとときでした。通訳さんを介してですが、いっぱい話せたし、末っ子のカイサちゃんとは身振り手振りでコミュニケーション。追いかけっこしたり踊ったり、よく遊んだなあ。楽しかった交流のあれやこれやはまた別の機会に書くことにしますが、つまるところ、別れが辛くなっちゃうくらいに仲良くなったのです。
 海苔は好みの問題があるので別のお皿に。まっくろで海の匂いで、初めて見る人にとってはきっとミステリアスに映るでしょうからね。
 食べてくれるかな。ドキドキです。
「ありがとうの、おにぎりです」
 テーブルのまんなかに置きました。
 まっしろごはんの固まりに、みなさん目をぱちくり。(なんで三角で、しかもお皿に立っているんだろう)と心の声が聞こえるようです。
 どんな時に食べるのか、どうやって食べるのか。説明をして、ひとつずつ手に取ってもらいました。
 ご両親は海苔を巻いて、子どもたちは海苔を巻かずに、ぱく。
「おいしい」とにっこり笑ってくれました。よかったあ!
 あっという間にお皿はからっぽに。
 お母さんのイリーナさんは「仕事場に持って行きたい!」と本当に気に入ってくれたようで、ラップフィルムで作る方法を伝授。うれしかったです。
 こじんまりとした、ささやかな食べ物だけど、スウェーデンの鮭と、日本のお米文化とがひとつになった、幸せの白い三角おむすびでした。
 おにぎりのいいところは、ほかの食べ物とちがって、ぎゅっと握るところがいいのだと思います。ここに気持ちがはいるというか。
 いままで、いろんなところでいろんな人に握ってもらったおにぎりのことも思い出しました。

 一般的に真面目で、控えめ、勤勉、几帳面、と言われているスウェーデンの人々。そんなに大勢と出会ったわけではないけれど、なんとなく、日本の人と気質が似ているようにも思えました。全く知らない土地なのに、居心地が良くて、気負わずリラックスして過ごせるのです。これまでいろんな国に行きましたが、こんな風に思えるのは初めて。次は休暇をとって、ゆっくり行ってみたいなあ。
 そして、またモランダーさん一家に会いたいな。日本にも来てねと伝えましたが、次に会えたらおにぎりのお弁当を一緒に作って、みんなでピクニックをしたいと思います。

本上まなみ

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