2011年07月14日

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『ぴあ』休刊につきない思い出

 夜中にツイッターのトレンドを見ていると、今現在、数多くつぶやかれているキーワードがわかります。
 おかげでニュースを見てなくても、築地市場の火事も、なでしこジャパンのワールドカップ決勝進出も、リアルタイムで知ることができます。
 こういう情報の共有スピードの速さを体感すると、これまでの情報提供サービスは新しい形にならざるを得ないなと感じます。

 情報誌なんて本当に時代遅れになってしまったんですね。
『ぴあ』首都圏版も来週の7/21発売号で休刊になりますが、それも仕方のないことなんだろうなと思います。
 思いますが、しかし、寂しい。

『ぴあ』という雑誌は、東京生活の象徴でした。
 最初に知ったのは大学受験で東京のいとこの家に泊まった時。

 一つ下のいとこが、買っていたんですね。
 そこには映画や演劇の情報がビッシリ。
「さすが東京、こんな便利な雑誌があったのか」と驚きました。
 そして無事大学に合格して、東京暮らしが始まると、『ぴあ』は僕の生活の必需品になりました。
 当時は月刊誌。値段は100円か150円。確か150円だったかな。
 買うと、まず映画欄を確認して、行きたい映画をチェックします。
 まだ名画座がたくさんあった時代です。しかも自分が通っている立教大学がある池袋には文芸座という有名な名画座がありました。
 一階は洋画、地下は邦画。週替わりの二本立てですが、土曜の夜はオールナイトで四、五本上映する。
 入場料は通常が300円くらいだったのですが、これが『ぴあ』をもっていくと100円割引になる。他の名画座でも『ぴあ』割引はあったので、二三回名画座に行けば、この雑誌代くらいは、元が取れてしまうんです。
 金のない学生には本当にありがたかった。
 田舎暮らしで、まだビデオもない時代。とにかく見損ねていた映画が観たかった。東京に行けば映画と芝居を好きなだけ観る。そう決めて、高校時代からコツコツそのための費用を貯金していたのですから、もう毎日のように映画館に通っていた。
 一番多い時では、丸一日で文芸座だけで9本観たかな。土曜の午後、文芸座でまず2本、夕方アパートに帰って仮眠を取って、夜9時か10時くらいから始まるオールナイトに出かける。ここで5本観て、朝、時間を潰して、文芸地下で一番の回に入って2本観て家に帰るというのをやりました。これで映画代は全部で1500円いかなかったんじゃないかな。
 まあ、体力だけはあったということです。
『ぴあ』を片手に名画座は随分回りましたね。佳作座、早稲田松竹、江古田文化、板橋東映、黄金町や座間あたりまで行った事もあったな。当時は小田急沿線だったので、関東西部がメインだった。
 大学一年生の時に、一年間で300本近く映画を観たのですが、二年になって、ふと「あれ、俺、なんで大学に友達がいないんだろう」と思い、「あ、そりゃそうだ。だって学校よりも映画館にいる時間のほうが長いじゃないか」と気がついて、二年目からはさすがに減らしました。それでも年間100本は観ていたな。
 演劇でも、随分お世話になりました。
 映画以上に情報がないので、とりあえず芝居のタイトルだけで観るものを決めたりとか。 

『ぴあ』の魅力はそれだけではありません。「はみだしYOU&ぴあ」という雑誌の両サイドで読者投稿を載せていたのですが、そこに掲載されるのが学生の憧れだったり、クロスワードのイラストが、高校時代好きだったマンガ家の大矢ちきさんだったり、隅から隅まで楽しめた。
 読者プレゼントで月光仮面のポスターが当たり、お茶の水のレコード屋まで受け取りにいったこともあったな。編集部からの発送ではなく、自分でお店にもらいに行くところが、いかにもタウン誌らしいなと感心したりもしました。

 そしてなにより、「ぴあテン」と「もあテン」です。
「ぴあテン」は今でも続いているのでご存じの方も多いでしょうが、その年に公開された映画や演劇のベストテンを読者投票で決める。
「もあテン」は、自分が観たい過去の作品の人気投票ですね。オールタイムベストテンということで、その頃は映画だと一位はだいたい『2001年宇宙の旅』だった。当時はビデオもなくリバイバル上映の機会も少なかったので、幻の傑作SF映画という評判だけが一人歩きしていたのです。この企画は、映画会社へリバイバルを促す意味もあったのかもしれませんが、気がついたらなくなっていました。ビデオレンタルが始まり、好きな映画を好きな時に観られるようになったからでしょうか。 「ぴあテン」の演劇だと、当時はやはりつかこうへい事務所全盛期でしたね。新作として『いつも心に太陽を』や『広島に原爆を落とす日』、『蒲田行進曲』が公演されていた時代でした。あと、東京キッドブラザース、東京ヴォードヴィルショー、東京乾電池なんかが人気でしたね。もちろん状況劇場も、唐十郎を筆頭に李礼仙、根津甚八、小林薫、十貫寺梅軒、不破万作などなど役者の黄金期だったのではないでしょうか。
 そういうそうそうたる劇団をながめながら、いつか自分の芝居がここに載る日が来ればいいなとぼんやり憧れたりしていたものです。
 その後、劇団☆新感線として、随分と雑誌『ぴあ』にお世話になるとは思ってもいませんでした。  特に関西版は、編集部が、新感線の稽古場と同じ扇町ミュージアム・スクエアにあったりして、縁を感じたものです。

『ぴあ』が隔週になり、こちらは会社の仕事が忙しくなり、学生の時のように、一冊丸ごとしゃぶりつくすような読み方はしなくなり、やがては買わなくなってしまいました。
 それでも、自分にとって、確実に一時代の戦友だった雑誌がなくなるのは寂しいものです。
 最終号くらいは、じっくり読んでみたいですね。

中島かずき

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