2011年06月15日

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フライパン、の巻。

 私は今、わくわくしている。
 というのも先日近所の商店街にある鋳物屋さんで、南部鉄のフライパンを注文したのです。木の柄が取り外せる(つまり、古びたら柄を新調できる)24センチの黒々堂々としたフライパン。値段はおよそ五千円なり。
 早く手元にやって来ないか、待ちかねているところなのです。
 初めての、鉄のフライパン。
 元々、鉄のフライパンには憧れがありました。育てていく楽しみがありそうだなあって思っていたのです。
 充分に使い込まれた鉄のフライパンって、うちの実家にもありますが、佇まいがいいんですよね。黒光りして、外側のふちあたりの焦げが盛り上がっていたりして。所々にある傷も味があって、歴史を物語っているよう。家族のお腹を満たすために働いてきた、縁の下の力持ち的存在。ざっくりとした料理が似合う、大らかさがありますしね。
 でも、油が充分になじんだ使いよいフライパンになってもらうためには、手をかけ目をかけ、気長に成長を見守らねばならないはず。
 日々の慌ただしさのなかで、フライパンをちゃんと育てることができるかなと踏み切れずにいたのです。毎日使うものだけに、買ったときが完璧状態というフッ素樹脂加工タイプについつい手が伸びていました。
 うちの現役フライパンは二つ。18センチのと、32センチという特大サイズ。どちらもステンレス製で、表面がフッ素樹脂加工されたもの。東京のかっぱばし道具街で買いました。
 小さいほうは、お弁当作りに欠かせません。娘は弁当持参で幼稚園へ行くのです。
 朝は、まず一番にお砂糖と牛乳を入れたふんわり甘い卵焼きを作り、それをお皿に移したら、そのままお湯を沸かしてソーセージをボイル。その後さっと洗ってレンコンを炒めたり(娘はキンピラ好き)、アスパラを蒸し煮したり。ふちの高さが四センチほどあって、オムライスの卵も上手に巻けるし、重宝していたのです。くるくるとよく働いて「コマネズミさん」と呼びたいくらい。
 一方大きいほうのフライパンは、大胆に料理ができます。
 魚焼きグリルに入りにくい大きめの干物とか、ハンバーグを五、六個一度にとか、餃子も大量かつ、いっぺんに焼くことができるという、頼もしいやつ。お好み焼きも、三人家族が食べられる分を一気に。ホットケーキは、5センチくらいのちっちゃいのをたくさん焼いたりするのですが、同時に8枚は楽勝。
 時間の節約につながり、本当に助かっていたの。
 唯一の難点はというと、フタがないことでした。特大サイズ故か、32センチのフタって売ってないんですよね。
 ずいぶん探しましたよ。かっぱばしはもちろん、デパートも、ホームセンターも。ステンレスやアルミ鍋の大きいのがフタつきで売っていて、ああ! っと駆け寄ったのですが、どれもセット販売。フタだけ売ってくれるところはなかったのです。
 うちに帰って困った困ったと思案していたら、ふと目についたのが中華鍋。もしかして......と、伏せるようにしてかぶせてみると、あれまあ、ぴったりサイズだ!
 32センチ同士だったのは全くの偶然です。買った場所も、時期も、違うのに不思議だなあ。このサイズを使っているというのは、食いしんぼう度、手の大きさ、腕力ありますよ、という3つの要素が証明されているようなもの。大抵のフライパンは24センチ、大きいのでも27センチほどだと思うので、うちのを見た友達やおかんに「でかいな!」とびっくりされるのです。
 中華鍋は、フタとしてはちょっぴり不安定ですが、他に頼るあてもなし。なにより二足のわらじを履いてもらえるなんて、狭いキッチンでは本当にありがたいことで、感謝しています。
 それから三、四年が経過。
 このところフライパンのフッ素樹脂加工がはがれてきたことを、気に病んでいました。
 使い始めはいいんですけれど。焦げつきにくい、使う油の量が少なくて済むというメリットも、数年で弱まってきますよね。徐々に内面がざらっとしてきて、焦げつきやすく、油を多用しなければいけなくなってくる。
 割り切って定期的に買い替える、という方もいらっしゃるようです。
 実は私も二回そうしました。ああいう堅い丈夫なものをゴミにするのは結構後ろめたいので、ずるずる戸棚に眠らせていたのですが、あるタイミングで夫に発掘され、「コレなんだっけ」「で、まだ使うつもり?」と追及されたのです。ひそかに夫を恨みながらも、反論できずに泣く泣くお別れしたものでした。
 今うちにいるフライパンたちにも、愛着があるんですよね。だから手放したくなくて、ずるずると使い続けていたのです。料理がこびりつくんだけど。
 今回鉄のフライパン購入に踏み切ったきっかけは、加工がはがれたフライパンに、再加工を施してくれる工房があるということを知ったからなのです。
 胸にたまったもやもやを解消してくれる、理想的な工房。これで捨ててしまうという辛さから解放されました。よかった!

 注文したフライパンが早く届くといいなあ。そうしたら、今あるふたつのフライパンを修理に出して、直してもらうんだ。彼らが修理から戻ってきたら、きっとまた、ホットケーキが美しく焼けることでしょう。錦糸卵もキレイにできそう。
 新人の鉄フライパン君を気長に育てつつ、先輩方にも引き続き頑張ってもらおうと思っています。

本上まなみ

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