ライター　白河桃子、茅島奈緒深、朴　順梨、斉藤真紀子


　パチン、パチン、パチン。

　朝から、家中の電気をつけて回る。被災地の人のために東京でできることって、節電くらいしかないのに。そのくせ妻が大事にしているランプやステレオのコンセントは抜いたりする。

　夫の振る舞いに、なんかヘンだよな、と思っていた矢先、原発の水素爆発報道から数日後のこと。都内に住む40歳の主婦は、テレビのコメンテーターの発言に、凍りついた。

「東京でも、あまり換気扇を回したり、部屋に外気を入れない方がいいかもしれませんね」

　すぐに換気扇や、ありとあらゆる窓をガムテープで目張りした。夫には、こうメールをしておいた。

「家の中の空気がこもってるかもしれないけれど......」

　深夜、寝室まで聞こえてきたのは、ご機嫌で帰ってきた夫がベリベリと部屋中のテープをはがし、窓という窓を開け放つ音だった。翌朝見ると、はがしたテープが床に転がったままだ。

　結婚４年目になる。会社経営の48歳の夫は物事に動じず、仕事も精力的。犬を飼い、お互いにあまり干渉しない生活が気に入っていた。

　ところが、震災後、夫の態度が、気にさわるようになった。余震が怖い妻に共感してくれないばかりか、自分の生活をまったく変えようとしない。

　何度か、

「一緒に、関西の実家に逃げよう」

　と言ってみた。でも、答えは、

「自分には会社がある。行きたければ一人で行っておいで」

　仕方なく、一人で帰郷の準備をしていた夜のことだ。夫が犬に小声で話しかけているのを聞いてしまった。

「死ぬときは一緒でしゅよ～。一緒でしゅよ～」

　ゾッとした。

　世の中がどうなろうと、自分はあくまで生きることを考えたい、未来志向でいたいと思っているのにーー。