2011年04月17日

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盲人たちの「2011.3.11」

闇の中、あの大津波からどう逃げたのか


編集部 野村昌二


 宮城県東松島市の金子たかしさん(65)はそのとき、自宅2階にあるデスクトップの音声パソコンの前に座っていた。

 目が見えない金子さんのパソコンには、盲人用の音声ソフトが組み込まれている。パソコンが発する合成音声で、視覚障害者団体などからのメールの文面をチェックしていた。

 最初に、小さな揺れを感じた。「これで終わりかな」。少し安心した途端、激震が来た。外に逃げなければ。階段の手すりを伝って1階に下りた。盲人に欠かせない白杖を手探りした。あれほどの激しい揺れでも家屋に大きな影響はなかったのか、白杖はいつも置いている玄関わきにあった。それを折りたたみ、右手に持った。そこに不気味な「音」が迫ってきた。

「ゴゴゴゴ......」と重機が近づくような音がした。同時に海岸に面する南側の窓ガラスがガチャーンと割れる音が聞こえた。

「津波だ!」

 とっさにそう思った。

 一人暮らしの自宅は石巻湾の海岸から直線距離で300メートルほどの場所にあった。

「シュー」という音がした。と思うと、一気に海水が胸元までくるのがわかった。体が海水ごと山側の方向に押し流された。

 無意識に呼吸をとめた。立ち泳ぎのような姿勢のまま濁流に身を任せた。水中で音は聞こえず、ただ、車のガソリンなのか、油のにおいが強かった。

 どのくらいたっただろうか、気がつくと、海水が引いていた。両手両足で四方を確認すると、頭の上にトタンのようなものがあった。手で少しずつかきわけていった。

 修羅場の中でも、なぜか白杖を最後まで握っていた。それを伸ばし、周りを探った。障害物が何もなかった。それで残骸の一番上に出られたのがわかった。

 ずぶぬれのまま残骸の上に腰掛け、じっとして体力の消耗を防いだ。やがて聞き覚えのある女性の声がした。

 白杖で残骸をがんがんたたき、「助けてください!」と叫び続けた。

 女性は近所の民生委員だったーー。

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